DXについての取り組み概要
(下記は、月刊石垣2021年2月号に掲載された記事です)
機械設備メーカーの水谷精機工作所は、産業機械の設計・製造を行う一方、VR(バーチャル・リアリティー)事業を開始し、3D CADデータの立体視や遠隔作業支援システムを開発。高精度カメラを使った遠隔作業支援システムは、熟練者が現地に行かずに作業の指示を出せるとして、コロナ禍で出張・派遣が難しい現在、大きな注目を集めている。
CADで設計した機械をVRで立体映像化して確認
江戸時代から鋳造などの工業が盛んな桑名市で、水谷精機工作所は機械設備メーカーとして顧客に無人化・省力化を提案している。時代の先端技術にもいち早く取り組んでおり、NC加工機は1970年、CADは90年ごろと、中小企業としては比較的早い時期から始めている。社内のIT化も同様で、業務に必要なデータをパソコンで共有する社内LANもパソコンが世間でまだ一般的ではなかった95年に導入した。
そして、同社は3年前にVR事業を開始した。もともと、自社の業務で使ったら便利ではないかという発想から始まったと、社長の水谷康朗さんは言う。
「CADで設計したものを製作する前に、バーチャル空間に映像を浮かばせて立体で見て、設計を検証したいと考え始めたのが最初です。たまたま3年前にいいハードウエアと巡り合い、使ってみたところ、非常に良かった。これならお客さまにも商品として薦められると事業化したのです」
これが「プロジェクションVR」で、正面、左右、床の4面のスクリーンに映像を投影させ、専用グラスをかけると、空間に立体映像が浮かび上がる仕組みになっている。これにCADで設計した機械を投影すると、目の前に立体で現れ、設計に問題がないかを確認することができる。機械の周りを回って全体を見たり、機械の映像に自分の頭を入れて、機械を分解することなく内部の部品干渉を見たりすることができる。
「それ以外に、裸眼のVRシステムも完成しています。ピラミッドの4面に画像を投影するとピラミッドの中に物体が浮かび複数名が同じものを立体視できます」
高画質の映像でビデオ通話遠距離の出張が不要に
一方の遠隔作業支援システムは、2年前に開発を始め、昨年9月に商品化した。それが高性能スマートグラスを使った「リモートマイスター」で、1280万画素の高画質小型カメラと液晶、マイクが一体となっており、インターネットを通じて離れたところにいる装着者と映像を見ながら会話できるシステムになっている。
「工場の工作機械が壊れたらサービスマンを呼ぶ必要がありますが、来るまでに何日も待たされる場合があります。しかし、リモートマイスターで工作機械を映し、インターネットを通じてサービスマンに見せれば、わざわざ工場に来てもらわなくても、サービスマンの指示ですぐに直してしまうこともできます。また、これまでは経験の浅い作業者が熟練者とともに顧客の工場に出張に出掛けていましたが、これがあれば、作業者のみが現場に向かい、熟練者は自社でカメラの映像を見ながら音声と画像ツールで指示が出せます。また、海外出張が難しくなっている今、リモートマイスターを現地に送り、日本でその映像を見ながら指示を出すこともできます。これらにより出張費用が大幅削減されます」
テレワーク支援やリモート営業も可能に
開発の際に特にこだわったのが高画質である。一般的なアプリを使ったビデオ通話は、画像が粗く、動きも滑らかではなかった。産業機械の場合は細かい部分を映す必要があるため、1280万画素の高画質で動きも滑らかな映像をそのまま送れるシステムにこだわった。そして昨年3月には自社の業務で使えるレベルになり、その後、さらなる改良を加えて販売に至った。
「工作機械業界では、顧客が工場に来なくても機械や切削物を見ることができるリモート立ち会いが進んでいます。また、製造現場だけでなく、さまざまな産業で営業ツールとしても使われています。ファッションデザイナーの桂由美さんは、コロナで日本に来られない海外顧客にドレスの映像を見せながらショールームの案内をするのにリモートマイスターを導入されました。高級なドレスは布の質感を伝えることも重要ですが、リモートマイスターの画質ならば十分に応えることができます」
コロナ禍で製造現場や営業に行くことが難しくなっている中、高画質のビデオ通話が可能なリモートマイスターは、さまざまな産業にとって一筋の光となる可能性を秘めている。
<お知らせ>現在、同社ではリモートマイスターの販売代理店募集中。詳細は下記メールアドレスまでお問い合わせください。
Email:yasuaki@mizutani-seiki.com